鬼平犯科帳'81

鬼平犯科帳’81 おれの弟

鬼平犯科帳(萬屋錦之助版)・第2シリーズ(鬼平犯科帳’81)・第21話:おれの弟
初回放送:1981年9月1日

おれの弟・あらすじ

その年の江戸は、大雪、長梅雨と不順な天気が続いた。そして長い梅雨が開けると、いきなり暑い日が続いた。
鬼と呼ばれる平蔵も、さすがに暑さには敵わない様子で、縁側の近くに寝そべると、扇子を扇ぎながら「どうもたまらんなあ」などとぼやいている。
そこへ久栄が、くすくす笑いながら水桶を持ってきた。平蔵は、久栄が絞ってくれた手拭いで、顔と首筋を拭くと、涼を感じることが出来た。
久栄は、まだくすくすと笑っている。平蔵が、なにが可笑しいと聞くと、久栄は辰蔵が申した事を思い出したのでと、語り始めた。

四五日前の、やはり今日の様に蒸し暑い日のことだった。
役宅に来た辰蔵が、ぐだぐだと寝そべっている平蔵を見ると、呆れたような表情で「母上、あれはなんです」と久栄に囁いた。「あの様に昼日中から、寝そべっていては、如何になんでも行儀が悪すぎます」、「上に立つものは身だしなみが肝要。あれでは下の物にも示しがつきますまい」などと、いっぱしの事を言ったそうだ。

それを聞いた平蔵が笑いながら、「あやつが一人前に、左様な事を申したか」 と笑うと、久栄は「なれど私も辰蔵と同じように思いましてごさいます」と楽しそうに笑っている。と、平蔵は突然「着替えを頼む」というと「左馬之助に会いに行く」と立ち上がった。

平蔵が役宅を出ようとすると、門の脇で将棋をさしていた忠吾が「お頭、どちらへ」と声をかけて来たが、平蔵は何も応えず出かけて行った。
何も応えない平蔵に、忠吾は「あれは、お頭に女が出来たに違いない」と面白がっていた。

目白台(今の東京都文京区にある)には、長谷川家の私邸があり、辰蔵が住んでいる。不意を襲って、口ばかり達者な倅を、思い切り懲らしめてやろうと言うのが、平蔵の腹のうちであった。
つらつらと歩いていたが、流石の暑さに、平蔵は駕籠舁(かごかき)をつかまえると「目白台へ言ってくれ」と頼んだ。

その途中。平蔵は、一人の男が料理茶屋に入っていくのをみた。丈助だ。
滝口丈助は、若い頃ともに高杉道場で剣の稽古に励んだ弟子である。様子が気になった平蔵は、駕籠を止めると、丈助を追い料理茶屋に入っていった。店には「紀伊御本陣」の看板がかかっていた。

平蔵は部屋に上がると、案内の小女に、丈助の事を尋ねた。それよると、丈助には連れが待っていた。どこぞやの御新造さんらしい。
あの堅物が人妻と密会かと、平蔵は腑に落ちないようすで、暫くして密かに部屋を出ると、中庭の垣根の隙間から丈助の様子を伺った。
そこでは、女が泣きながら丈助にすがっている。女はお市殿だった。

一年前のことであった。平蔵は、經師(きょうじ:表具師のこと)今井宗仙を訪ねた。宗仙とは、父の代から身内同然の付き合いである。
そこへ宗仙の妻が茶を持って来た。歳の離れた妻で、お市という名だった。

半年前。丈助が、久しぶりに平蔵を尋ねて来た。十数年近くの間、折に触れて貸してくれた金、五両と二分を返しに来たという。
平蔵は、小遣いとしてやったのだと言うのだが、
丈助は、平蔵の推挙で高田道場の代稽古を仰せつかるようになった、出稽古の口もかかる様になったので、漸く返せるようになったと、頑として返すという。
平蔵は、片意地な男と笑った。そんな丈助に、平蔵は嫁をとるように勧めた。丈助も、もう三十路を過ぎていたのだ。
しかし丈助は、剣術使いに女房はいらない、慣れると独り身も捨てがたいなどと、女にはまったく関心が無いようだった。

そんな丈助に相手ができたら、なんとか力になろうと考えていた平蔵だが、相手が人妻となると捨ててはおけないと思った。
しばらく時が過ぎ、丈助と女は店を出た。丈助の後をつけると、御刀研上所にたちより、すぐに一振りの刀を持って出て来た。

後日平蔵は、近くまできたからと、丈助の働く寺を尋ねてみた。
平蔵を見て驚いた丈助は、「今夜にでも伺うつもりでした」という。何かあったのかと聞くと、「久しぶりにお顔を見たくなって」というが、なにやら隠している様子。

丈助が暮らす小屋に案内されると、そこはみすぼらしく、この暮らしでどうやって五両二分もの金を作ったのかと思われた。酒をすすめる丈助に、一緒にどうかとさそってみたが、これから稽古があると飲まなかった。
平蔵は、また丈助に嫁をもらえと言ってみたが、丈助はそんな気にはならないと、相変わらずだ。この前のことが気になる平蔵は、女でも出来たのかとカマをかけてみたが、自分みたいな男を好きになる女はいないと笑っていた。
何かを隠しているような丈助に、平蔵は「何かあったら話せ」といっても、「ご案じいただく様なことは、何もございません。」と言うだけだった。

その帰り道。行商中のおまさが、平蔵に声をかけてきた。平蔵は丈助のことを話した。おまさは、若い頃の二人を知っていた。
平蔵はおまさに、「あの丈助が人を殺めようとしている。なにやら人妻と恋に落ちいっている様子だが、そこの関わりあいがとんと分からん。事は迫っている」と、五郎蔵と二人で丈助から目を離すなと指示を出した。

五郎蔵とおまさが、小石川の高田道場へ行ってみると、そこではただならぬ稽古が行われていた。どうやら平蔵の読みとは違い、事態は思いがけない方向へと進んでるようだった…


オープニングクレジット

プロデューサー:片岡政義、市川久夫、中岡潔治
原作:池波正太郎(文藝春秋刊)
脚本:小川英
音楽:木下忠司

キャスト

長谷川平蔵:萬屋錦之助
久栄:三ツ矢歌子
木村忠吾:荻島真一
大滝の五郎蔵:伊吹吾郎
長谷川辰蔵:島津英夫

河合絃司
佃文伍郎
折尾哲郎
伊吹徹
若林哲行
池田功
小泉比蕗子

ナレーター:小林昭二
殺陣:松尾玖治、錦燿会

滝口丈助:伊吹剛
お市:東山明美
おまさ:真木洋子
酒井祐助:目黒祐樹
天野甚造:御木本伸介
京極備前守:平田昭彦

監督:大洲齋

エンディングクレジット

スタッフ

撮影:伊佐山巌
照明:内田皓三
録音:谷村彰治
美術:鳥居塚誠一
制作 小島高治
編集:大高勲
整音:T・E・S・S
選曲:宇賀神守宏
効果:東宝効果集団
助監督:是沢邦男
色彩計測:淵野透益
記録:中田秀子
タイトル:鈴木日出夫
演技事務:田中忠雄
俳優管理:田原千之右
制作進行:長沢克明
進行:加納譲治
制作宣伝:納村達夫
装置:横山英一
装飾:清水晋冶
美粧:鵜飼威志
技髪:川口義弘
衣裳担当:福田明
大道具:東京テレビアート
小道具:高津映画装飾
衣裳:東京衣裳
かつら:川口かつら
現像:東洋現像所
プロデューサー補:菊池昭康
協力:生田スタジオ
制作:テレビ朝日、東宝株式会社、中村プロダクション