鬼平犯科帳'81

鬼平犯科帳’81 おみよは見た

鬼平犯科帳(萬屋錦之助版)・第2シリーズ(鬼平犯科帳’81)・第24話:おみよは見た
初回放送:1981年9月22日

おみよは見た・あらすじ

雷が鳴り、雨が降り始めた。雨はすぐに土砂降りになった。
そのなかを男が一人、土手の木の陰に身を潜めながら、下の家の様子を伺っていた。

「早くお行きよ」と、女が小女を蹴飛ばしていた。
小女はおみよという。雷に怯えていたのだ。
「女将さん、雷が収まってから行かせてください」と哀願したが、平手打ちをくらっていた。
その様子を、男は顔をしかめながら眺めている。

やがて諦めたのか、おみよは傘をさすと、泣きながら使いに出かけていった。
(今だ、やれ)男の直感が走った。
男の名は、青堀の弥三郎。金ずくで人殺しを請け負うのが、この男の家業である。

家の中では、女が髪に櫛をあてていた。
「おやえさんかえ」
おやえが振り返ると、見知らぬ男が立っている。
とっさに逃げようとしたが、後ろから首を絞められ、意識が薄れたところを、合口で心の臓を一突きされ事切れた。

仕事を終えた弥三郎が振り返ると、土間でさっきの小女が、怯える様に丸くなって、こっちを見ていた。
面を割られたのだ。
「見たな」と言うと、おみよは悲鳴を上げながら外へ逃げだした。
弥三郎はすかさず追いかけたが、雨宿りをしていた大工達の所に逃げ込まれてしまった。

雨が上がり、弥三郎は長屋に帰った。
中に入り足を洗おうとした時、草履に気付いた。
「やったようだな」宇吉が来ていたのだ。
「ああ、来てたのかい、うきっつぁん」
「さっきの雨を見逃す、おめえじゃねえと思ってな」

「首尾は」
「ああ、済ませましたよ」
「言うまでもねえこったが、誰の目にも留まらなかったろうな」
「あっしが、したことでごさんすよ」
弥三郎は、足を拭き終わると座敷にあがり、宇吉に「お茶がわりだ」と酒を注いだ。

「約束の半金、七両二分。こいつぁ一日二日預からしてもらうよ」
「面をとられたな、弥三郎」

「いえ、そんなどじを」
「踏まねえってのかい。弥三郎、今まで何人殺しを頼んだか知れねえが、おめえから、こんな冷酒一杯でももらった事があったっけかなあ」

「見られたな、弥三郎」
「すまねえ、うきっつぁん」
「始末するんだな。この半金は、けりをつけてから渡すことにするよ」
「相手は十四五の小娘だ。それに顔を会わせたのも、ほんの…」
「今頃その小娘は、おめえの人相風体を、町方にしゃべってるだろうよ」
「方をつけな。それが俺たちの家業の決まりだよ」と言うと、宇吉は帰って行った。

犯行現場では、岡っ引きが取り調べをしていた。
「私は、顔も形も見ておりません。」おみよは答えた。
「顔が四角だか三角だか、わからねえのかい」
「私が勝手へ戻った時、男の人がそこから出ていきました」と、裏口を指差した。
大工は「あっしら、この娘が人殺しって飛び込んできたので知ったようなもんで、下手人の影や形なんか見ちゃいませんよ」
「しょうがねえな」

〜五鐵〜
「妾が殺された?」平蔵は、酒井からめかけ殺しについて聞いていた。
「日本橋通り一丁目の茶問屋、八幡屋利平の囲いものにて、名はおやえ。場所は、深川古石場近くの大島町の飛び地でごさいます」
「殺しの手口は」
「後ろから両手で首を絞め、気を失ったところを、合い口のようなものにて心の臓を一突き。所の岡っ引きから、聞いてまいりました」
「手掛かりは」
「何一つ残しておらぬそうで。使いから戻った、おみよとか申す小女が、逃げていく男を見たというだけでごさいます」

彦十が、軍鶏鍋の具を持って来た。
「妾殺しなんざ、町方にまかしときゃあいいじゃねえですか」

言われのない殺しは、今年に入って四件目だった。
近くは、下谷御徒町の小間物問屋の番頭。その前は、浜町の料亭の女将。

「おやえというめかけが、誰かに恨みを買ってたということは」
「旦那の八幡屋が通ってくる以外は、ひっそりと暮らしてたそうですよ。岡っ引きも、見当つかねえっていってやした」
「そのことだ。これまで手懸かり一つつかめんというのは…どうして殺されたのか、その筋合いが分からぬからだ。」

「酒井、殺された妾の素性、主の、八幡屋利平の内緒を洗い出せ」
「はっ」酒井はすぐさま五鐵を後にした。

~御料理屋 河半~
大島の庄兵衛。六十を越えた老齢ながら、本所、両国一帯の盛り場を取り仕切る、影の黒幕と言われる男である。

「まずいことに、なったもんだ」
「弥三郎には、小女を消せときつく申し付けておきました」
「あいつに殺し家業の性根が座ってるかどうか、そいつが心配なんだ」
「へい…」
「あれ、確か後家人の倅だったな」
「はい。八年前に、てて親が、上役の賄(まいない)の罪を背負って切腹。わずかばかりの禄高も召し上げられて、一家離散と聞いております」
「だから、そいつがしんぺえなんだよ」
「人間育ちは争えないもんだ。ご家人の部屋住みで、気の弱い所があんるじゃねえか」
「お頭、消せとおっしゃるんで」

「家業が家業だから、用心するにこしたことはねえ」
「待っておくんなせえ。弥三郎の事は、小女の方をつけるまで、待ってもらえねえでしょうか」
「あいつの腕がおしいんですよ、お頭」
「いちんちだけ待とうか。明日の暮れ方までな」

弥三郎は、土手の上から、あの小女がいないか伺っていたが、人の気配はまったく無かった。
土手の反対側には岡場所があった。

「すまないね、心付けまでいただいて」
酒をついでもらいながら
「それで、なにかい。お妾を殺した奴を、小女は見ていたとか」
「それが、顔も形も見てないんだそうだよ」
「見てない」
「ここの親分がしつっこく聞いたそうだけど、何も見てないと震えあがっていて、手がかりが掴めないって、こぼしてたそうだよ」
「ふーん。それで、今その小女は、どこにいるんだい」
「よくは知らないけど、まだ、この辺りにいるそうだよ。昼前だったかねえ、福島橋で見かけたという人がいたから」
「福島橋…」

〜役宅〜
平蔵は、酒井の報告を聞いていた。
「殺された妾のおやえは、芝神明前の水茶屋の女中あがりにて、八幡屋に囲われて、まだ半年あまりとか。やや勝ち気な性分で、勘定高い女だったと、同輩が申しておりましたが、殺される筋合いはなにも思い当たらぬそうでございます。」
「八幡屋の内緒は」
「これといった節は見当たりません。番頭以下、奉公人は、女中を加えて九名。商いも固く、茶問屋仲間の評判も取り沙汰するほどのものは御座いません」

そこへおまさがやって来た。
「御徒町の小間物問屋の番頭、浜町の料亭の女将殺しの手口が分かりましたので、とりあえずお知らせに上がりました。」
「両名とも、大島町飛び地のおめかけ殺し同様、首を絞められ、気を失ったところを、刃物で心の臓をひとつきという手口でごさいました」

酒井「同じ者の仕業なのか」
「ただ、殺しのいわれにつきましては、申し訳ごさいませんが、今のところはっきりしたものが掴めません」
平蔵「おまさ、そこの所が鍵だ。もう少し深く洗い出してみよ」
「かしこまりました」

「酒井、大島町飛び地の妾宅(しょうたく)へ案内(あない)いたせ」
「お頭直々にお出ばりなさるので」
「人殺しを家業にしておる者がいると、耳にしたことがある。それを束ねる奴がいることもな。」

〜妾宅〜
「小女は、裏口から逃げるのを見たと申したのだな」
「はい」
「妙だな」

「逃げるとすりゃ、表の土手道へまっすぐ行くはずだ。裏からわざわざ、表へ回るかな」
「これはうかつでごさいました。とすると、小女は嘘の申し立てをしているとしか思われませんな」
平蔵は頷いた。

「お頭」沢田がやって来た。
「小女の居どころがわかりました」
「酒井、小女をもう一度洗い直せ」
酒井は、おみよが働く蕎麦屋に向った…

ポイント

「おみよは見た」は、初代鬼平、萬屋錦之助版、中村吉右衛門版と三度映像化されているが、原作は「江戸の暗黒街」で、鬼平犯科帳ではない。

そのためなのか、暗剣白梅香で平蔵は「仕掛」という言葉を使っていて、仕掛人の存在を知っていることが伺えるが、この話では「人殺しを家業にしておる者がいると、耳にしたことがある。それを束ねる奴がいることもな。」と言っていて、仕掛人という呼び方を知らない可能性がある。

なおこの作品で仕掛人の男は「青堀の弥三郎」というが、中村吉右衛門版では「青堀の小平次(近藤正臣)」とうい名前で登場する。

オープニングクレジット

プロデューサー:片岡政義、市川久夫、中岡潔治

原作:池波正太郎(文藝春秋刊)

脚本:櫻井康裕

音楽:木下忠司

キャスト

長谷川平蔵:萬屋錦之助

酒井祐助:目黒祐樹

沢田小平次:潮哲也

おとよ 松原千明
おみよ 戸川京子

立花正太郎
堀之紀
佃丈伍郎

中井啓輔
松本敏男

藤宏子
本田淳子
上野綾子

小海とよ子
岩瀬裕美
綾瀬さくら
上野光幸

小島和夫
高杉良
菊地俊二
土井辰也

ナレーター:小林昭二
殺陣:松尾玖治、錦燿会

青堀の弥三郎:森次晃嗣

大島の庄兵衛:小栗一也

おまさ:真木洋子

相模の彦十:植木等

監督:小野田嘉幹

エンディングクレジット

スタッフ

撮影:伊佐山巌

照明:内田皓三
録音:谷村彰治
美術:鳥居塚誠一
制作 小島高治

編集:大高勲
整音:T・E・S・S
選曲:宇賀神守宏
効果:東宝効果集団

助監督:是沢邦男
色彩計測:淵野透益
記録:中田秀子
タイトル:鈴木日出夫

演技事務:田中忠雄
俳優管理:田原千之右
制作進行:長沢克明
進行:加納譲治
制作宣伝:納村達夫

装置:横山英一
装飾:清水晋冶
美粧:鵜飼威志
技髪:川口義弘
衣裳担当:福田明

大道具:東京テレビアート
小道具:高津映画装飾
衣裳:東京衣裳
かつら:川口かつら
現像:東洋現像所

プロデューサー補:菊池昭康
協力:生田スタジオ

制作:テレビ朝日、東宝株式会社、中村プロダクション