鬼平犯科帳(萬屋錦之助版)・第2シリーズ(鬼平犯科帳’81)・第23話:金太郎そば
初回放送:1981年9月15日
金太郎そば・あらすじ
片肌脱いで彫り物を見せながら、威勢良く蕎麦を運ぶ女。今江戸で人気の蕎麦屋、金太郎そばのお竹だ。町の物達はみな、その姿を見ると、お竹だ、お竹だと口にした。
お竹は、彫り物姿で、出前もするし、店にも出ていた。それが売り物になって、押すな押すなの大繁盛。蕎麦もめっぽういけるという評判だった。
酒井、沢田達が歩いていると、お竹が通りかかり、一行ももついつい立ち止まっては、お竹のうわさ話をしていた。
酒井が「おい、見とれている場合ではないぞ」と、自分たちの用事を思い出し、一行は横田屋へ向った。
醤油酢問屋横田屋には、五郎蔵が先に来ていた。昨夜、押し込みがあったとの知らせが有ったのだ。
酒井は、番頭の善助から説明を受けた。金子(きんす)八十五両が盗まれていた。
「主は」と聞くと、番頭は口ごもった。
酒井達は、金が置いてあった部屋を調べることにした。
横田屋の主人、その妻、番頭が立ち会った。
主人の伊太郎は、なぜかざんばら髪である。
横田屋は、盗賊に金子を盗まれたうえ、髪まで切られていながら気付かなかったという。
女房も、使用人達も、だれひとり賊には気付かなかった。
「恨みをうけるおぼえはないか?金が目当てなら、髷をきらないだろう」と酒井が聞くが、横田屋には覚えがなかった。
善助に心当たりを聞いたが、恨みを受けるようなことは無いと言う。
そこへ五郎蔵が「こんな物が」と藁馬を見せた。
〜役宅〜
酒井から報告を受けた平蔵は、藁馬を見ると「藁馬の重兵衛が、江戸に舞い戻ったのだろう」と推測した。
「藁馬の重兵衛め、またぞろ年甲斐もなく」。
「重兵衛は、昨年、日本橋の沢井屋で百五十両あまりを盗んだあと、上方へ逃げたと聞いております」
藁馬の重兵衛は、藁馬を置いていくだけ、家のものに手をかけたことは一度もなかった。それが何故、今度に限って横田屋の髪を切ったのかが分からなかった。
そこへ吾郎蔵が、聞き込みの報告にやって来た。
髷をきられた横田屋伊太郎は、以前本所元町で手広く商いをしていた、金屋伊右衛門の一人息子だった。
それが、金屋が傾き店を閉めた後に、奉公に入った横田屋の娘に見初められて入り婿に入っていた。
番頭の善助は、金屋が全盛だったころの大番頭で、伊太郎と一緒に横田屋へ入った。
他の者も、みな身元の確かな者ばかりだった。
平蔵は酒井に、横田屋伊太郎に恨みを持つ者を探すように命じた。
「藁馬の重兵衛に、因縁のある奴かもしれん」
〜金太郎そば〜
店を閉めた後、お竹と由松は、向かい合って夕食を食べていた。
お竹も由松も、店が繁盛しているのが嬉しかった。
お竹は、「この藁馬をくれた方と、由さん、あんたが、あたしの命の恩人」と藁馬を手にとると、「木更津の旦那、どうなさってるかね」と半年前の事を思い出していた。
でと、いう
半年前、お竹は蕎麦屋をてにいれ、暖簾を出したものの店は閑古鳥。場所も蕎麦の味も悪く、数えるほどしか客のない日が何日も続いた。
ある雨の日。お竹が出前から戻ると、利助と由松がいなくなっていた。見切りをつけて逃げ出していたのだ。
頽(くずお)れ途方に暮れていると、由松が帰って来てくれた。
お竹は、もう一度やり直してみよう、なんとしても店を繁盛させようと考え、彫り物をいれた。
三社祭で、威勢のいい彫り物を入れて神輿を担ぐ男をみて、そう考えたのだった。
そしてまた、蕎麦の味では江戸一番の上野の無極庵(ぶきょくあん)をたずねた。
「私たちが、いくら背伸びをしても、こちらの蕎麦には及ばないが、せめてお客さんが喜ぶ蕎麦を出したい」からと、
主人に職人を貸して欲しいと頭を下げた。
もちろん断られたが、お竹は引き下がらなかった。
「ばかな女とお思いかもしれませんが、旦那、私はこの姿で、店でも働き、表へ出前にも出るつもりでごさいます。このままでは、このままでは、せっかくの思いで手にいれた店も、人手に渡ります。
なんとか、なんとか、客を寄せなくちゃ…」
お竹は、これを見て下さいと彫り物を見せた。
「そんな了見じゃいけない。彫り物で、客を寄せようなんて。」
「ふらりと通りすがりに寄った客が、味を覚えてまた来てくれる。そうやって、お得意様が、だんだん増えていく。それが、食べ物屋の本道だよ。」
「すいません、お目を汚しちまって。」
だが、お竹の熱意は無極庵の主人の心を動かした。
店で一番腕の良い、房治郎という職人を一月だけ貸してくれた。
房治郎は、由松に徹底的に蕎麦の打ち方、汁の作り方をたたきこんだ。
そのおかげで、はずかしくない店に生まれ変わることができた。
ある日、酒井が平蔵を誘い、金太郎そばにやってきた。女将は留守だった。
天ぷら蕎麦を頼み待つ間、自然と横田屋伊太郎の話題になった。
伊太郎は、女を二人囲っていた。
原因は、女がらみではないかと酒井は考えていた。
そこへ蕎麦が来たので、さて食べようとしたその時、平蔵は店にある藁馬に気づいた。
蕎麦屋の小女に聞くと、女将さんが商売繁盛のお守りに、大切にしてるという。
「昔それをくれた人が、女将さんの恩人。もしこの店にその旦那がよったら、すぐ分かるように置いてあるんです」
「恩人というのは」
「女将さんはいつも、木更津の旦那と言ってます」
それ以上のことは分からなかった。
蕎麦を食べ終えた平蔵達が、店から出ようとすると、隠れるように背を向け、立ち去ろうとする男がいた。
横田屋の番頭、善助だ。
〜役宅〜
役宅で、善助は逃げようとした訳を話せと詰め寄られていた。
「お前は金太郎そばの女将とかかわりがあるな。」
「髷を切られた横田屋伊太郎とお竹との関わりは」
と平蔵が問いつめても、善助は怯えた様子で、口を開こうとはしない。
「悪い様にはせん、包み隠さず申し上げたらどうだ」
酒井がなだめる様に話しかけると、善助はようやく話始めた。
「お竹ぼうを始めて見たのは、今から10年前のことでございます…」
善助が、本所元町の酒問屋、金屋で番頭をつとめていた時のことだった。
雪の降る日、橋のたもとに立っていて、あんまり哀れだったと、金谷の主人がお竹をつれてきた。
お竹は、その時12歳。越後津川の生まれで、二親を無くし、叔父とやらを頼って、はるばる江戸に出てきたものの、その叔父も行き方知れず。
一人で、途方にくれていたところを、金谷の主人に声をかけられたのだ。
主人は、お竹に優しくしあげるようにと、息子の伊太郎に引き合わせた。
お竹は、陰日向なく、身を粉にして働いた。
年月が経ち、お竹も、いつしか娘らしくなったある日。
主人の請判(うけはん)が元で、金屋が人手に渡ることになった。
息子の伊太郎は、横田屋へ住み込みの奉公。主人と善助は、長屋住まい。
そんな主人に、お竹は恩返しをしたいと付いて行った。
お竹と善助は、寝付いたきりの主人の面倒を見るため、手内職の風車や風船を売って、一所懸命に働いた。
主人は、そんなお竹を、伊太郎の嫁にと考えていた。
お竹は、伊太郎を想っていた。
しかし伊太郎は、お竹をただの遊び相手としか見ていなかった。
そして善助は、お竹が捨てられると考えていた…
オープニングクレジット
プロデューサー:片岡政義、市川久夫、中岡潔治
原作:池波正太郎(文藝春秋刊)
脚本:田坂啓
音楽:木下忠司
キャスト
長谷川平蔵:萬屋錦之助
酒井祐助:目黒祐樹
沢田小平次:潮哲也
大沢萬之价
菅啓次
江見俊太郎
池田生二
中村竜三郎
鈴木誠一
弘村三郎
沢美鶴
土屋靖雄
西田珠美
早瀬友花里
井沢明子
堀田秀康
菊地俊二
高杉良
阪東豊之助
嶋崎由起子
ナレーター:小林昭二
刺青 霞涼二
殺陣:松尾玖治、錦燿会
お竹:佐野アツ子
由松:浜田光夫
藁馬の重兵衛:江戸屋猫八
大滝の五郎蔵:伊吹吾郎
監督:鹿島章弘
エンディングクレジット
スタッフ
撮影:伊佐山巌
照明:内田皓三
録音:谷村彰治
美術:鳥居塚誠一
制作 小島高治
編集:大高勲
整音:T・E・S・S
選曲:宇賀神守宏
効果:東宝効果集団
助監督:是沢邦男
色彩計測:淵野透益
記録:中田秀子
タイトル:鈴木日出夫
演技事務:田中忠雄
俳優管理:田原千之右
制作進行:長沢克明
進行:加納譲治
制作宣伝:納村達夫
装置:横山英一
装飾:清水晋冶
美粧:鵜飼威志
技髪:川口義弘
衣裳担当:福田明
大道具:東京テレビアート
小道具:高津映画装飾
衣裳:東京衣裳
かつら:川口かつら
現像:東洋現像所
プロデューサー補:菊池昭康
協力:生田スタジオ
制作:テレビ朝日、東宝株式会社、中村プロダクション